あにょりもっも

気まぐれ旅行記みたいなものを目指したなにか

国鉄士幌線のコンクリートアーチ橋めぐり   ~タウシュベツ見学ツアー~

前記事では、ぬかびら温泉より下流の「第三音更川橋梁」「第四音更川橋梁」を一人で勝手に見学した様子をお伝えしましたが、この記事では、NPO法人ひがし大雪自然ガイドセンターさんが開催している「旧国鉄士幌線アーチ橋見学ツアー」に参加してみた様子をお伝えしていきます。最近このツアーはとても人気で、14しかない席はすぐ埋まってしまうので、参加したい方は早めの予約を!(と言っても橋が水没しちゃうとダメなので、そこが難しいところ)

 

タウシュベツ川橋梁は、その美しさ、古代遺跡のような風格から、様々なパンフレットやポスターにも度々登場し、また劇場版ガールズ&パンツァーのカール自走臼砲のシーンに登場する鉄道橋のモデルにもなった、非常に有名な橋です。

ダム湖である糠平湖に完全に水没してしまう時期もあり、どっかの新聞では「幻の橋」とか呼ばれちゃってるこの橋は、ダムが完成し汽車が上を走らなくなって以降、水位の上がる夏に水没して、水位の下がる冬に氷から顔を出し、水位と共に下がる氷にゴリゴリ削られながら春に向かっていく。ということを繰り返してきました。そのため、廃線から60年ちょっとしか経っていないのに、すっかり角が削れ、鉄筋が顔を出し、ところどころ崩れています。特に今年は「もう来年には11連のアーチは見られないかもしれない」と噂されており、観光客が激増。ツアーも大盛況となったのです。

 

タウシュベツ川橋梁へ行くには、国道から糠平三股林道を4kmほど進まなくてはいけません。そのため、見学ツアーに参加するのが一番手っ取り早いです。しかしどうしても個人で行きたいんだという方は、十勝西部森林管理署東大雪支所へ行って林道ゲートの鍵を借りるか、林道を歩くかの二択となります。なお一帯はヒグマがうじゃうじゃいる森なので、鈴とかスプレーとか、いろいろ準備しないとダメです。林道からタウシュベツ橋梁までの道はぬかるんでいるので、長靴も必要です。

ツアーでは、狭くてガタガタな林道を自分で運転する必要も、長靴や熊よけスプレーを用意する必要もありません。ぜんぶ面倒みてくれます。なので、ツアー代金3150円は安いと言えるでしょう。というか、山に慣れていない人はツアーに参加すべきですねー。

 

ツアーは1日3回(回数が少ない日もあるので注意)。5:30~7:15と、9:00~11:30、そして14:00~16:30です。早朝以外は、タウシュベツ川橋梁へ行った後に、第五音更川橋梁と、幌加駅跡の見学もあるので、トータル2時間半ほどのツアーになっています。いずれも参加費はおひとりさま3150円。

 

ツアーの申し込みは電話かメールになります。担当者がツアーに行ってしまっている日中は電話が繋がりにくいらしいので、メールを送ったところ、その日の夕方には受付完了の返信がありました。ガイドセンターのwebサイトをよく読んでメールで申し込むことをおすすめします。

 

 

 ツアーの集合場所は「糠平温泉文化ホール」です。ちょっとわかりにくい場所ですが、ぬかびら温泉郷はこぢんまりとした温泉街なので大きく通り過ぎることはないでしょう。私もちょっと通り過ぎちゃったんですがすぐに戻ってこれましたし(Googleマップを見て「ここ入ればいいのかー」と見当つけていた道が歩行者専用になっていたのが今回の敗因)

 ホールで受付を済ませ代金を支払うと、用意されていた黄色い長靴に履き替え、車に乗ります。27日の午後のツアー参加者は私を含めて11人。ほとんどが内地*1の人でした。集合が早かったので、13:55くらいにはもう出発しました。

こんな車2台でタウシュベツを目指します。

 

10分ほど国道を走ると、林道ゲートに到着。林道ゲートには「ヒグマ出没注意」という張り紙がベッタベタに貼ってあります。ヒグマ出没っていうけど、あの森ってヒグマたちが棲んでるとこだから、むしろヒグマ側が「ヒトが出没したぞ!」って言う側な気が…

ガイドさんの話ではツアー中に熊さんに出会うのは珍しいことではないらしい。今回は残念ながら?見なかったけれど。

 

林道をガタガタ走ること10分。タウシュベツ川橋梁の近くまでやってきました。ここから先は車両が入っていけません。車を降りて歩きます。

流木が転がるぬかるんだ道は、国鉄士幌線旧線の廃線跡です。足元に注意しながら進んでいきます。すると、森が途切れた先に…

(脳内BGM~ジュラシック・パークのテーマソング)

飽きるほど写真で見ていたあのタウシュベツ川橋梁が、目の前にどーんと現れました。

ここでツアーは40分ほどの自由時間になります。様々な角度から橋を眺めてみたり、橋に触ってみたりしました。なお、崩落の危険が高まっているので、橋の上を渡ろうなんてことは絶対にやめてください。

午後は湖側に光が当たります。紅葉した木々と風格ある橋とがマッチして美しいです。

実は、例年であれば秋は橋がほぼ水没している時期です。今年は雨が少なく、また夏の電力消費も多かったということでダムに水がぜんぜん貯まらず、先日の台風以前は橋が下まで完全に見えていたそうです。

タウシュベツ川橋梁と紅葉のコラボレーションという貴重な光景。しっかりと眼に焼き付けてきました。

60年もの間、水と氷によって削られ続けた橋は、かっちりしたコンクリート橋であったとは想像できないくらいにボロボロです。氷で削られないアーチの下の部分だけ、滑らかな肌を残しています。

橋の袂では、剥き出しになった鉄筋や、ボロボロな橋本体に触れることができます。ただし優しく触ってください。蹴飛ばしたらすぐヒビ入るんじゃねぇかなって感じなので。鉄筋が入っているのは外側の殻だけで、中身は石が詰まっています。材料調達を安く早く済ませ、山奥で大量にアーチ橋を建設しなければならなかった事情から生まれたこの工法は、この後に建設された様々なコンクリート橋でも用いられました。ただ、外側の壁が崩れてしまえば中の石は簡単にゴロゴロ崩れてしまうという欠点が、今になって現れています。

東側から少し離れて橋を眺めてみると、橋が傾斜しているのがよくわかります。橋が水没していない時にはわかりづらいですが、この橋は勾配区間にあったのですね。

大きな崩落箇所は、東側に二箇所あります(西側は一箇所)。

 

今後もどんどん崩れていくことが予想されており、完全に繋がった形で見られるのは今年が最後かもしれないと噂されています。

が、去年も一昨年もそんなこと言われていたので、案外あと数年は持つかもしれませんね…崩れてもなおアーチ部分はしっかり残っているのを見ると、アーチ構造の頑丈さがよくわかりますね。

この橋が現役の鉄道橋だった頃は、線路の両側に森が広がっていて、今とは全く違う景色だったそうです。ダムが建設された際に士幌線ダム湖の西側(国道が走っている側)に移設され、旧線はダム湖の底へ沈みました。そしてこの橋も時期によっては水没する場所になったので、周辺には木が無くなり、ダムの水が少ない春には辺り一面に切り株が点在する異様な光景が広がるそうです。

橋がボロボロになったのはダムのせい、しかし独特なロケーションを創り出して橋を魅力あるものにしたのもまたダムなのです。ダムってすげぇなぁ。

 

タウシュベツ川橋梁の見学を終えた一行は、林道を戻り、そこから国道を少しだけ登り、また別のアーチ橋「第五音更川橋梁」を国道上から見下ろしました。

こちらの橋は、ダム湖より上流に位置していて、綺麗な姿を保っています。朽ちていくのに任せているタウシュベツ川橋梁と違い、この橋は保存物なので補修が入っているようです。

 

そしてツアーの最後に、幌加駅跡に行きました。

かつて林業で栄えたという幌加の街は、今では森に還ってしまい面影がなにもありません。駅も放っておくと土砂が流れ込み埋もれてしまうそうで、定期的に掘り返してあげないといけないそうです。

帰り際にちらっと車の中から見た「三の沢橋梁」

こちらはダム建設時に移設された新線(昭和30年開業)の橋なので、これまで見た橋(昭和12~14年開業)と比較すると新しい橋です。なので老朽化もそこまで進行しておらず、上には柵が設けられ自由に歩けるようになっています。

 

かつて林業、そしてダム建設で栄えた糠平。しかし、こんな壮大な橋がいくつも建設されたのは、林業やダムのためだけではありませんでした。もともとは、三国峠を越えて層雲峡・上川へと線路を伸ばす計画だったのです。もしそんな計画が実現していたら、ここは北海道一の観光路線に…なる前に廃線になってただろうなぁどうせ…

 

 ツアーの終わり際、ぬかびら温泉郷の公園建設現場で鹿を発見。

北海道の山道を走る際は、鹿の飛び出しに注意してください。国道でも携帯電話の電波が来ないところが多く、事故って動けなくなったらJAFが来るまで半日はかかるそうです(ツアーガイド談)

 

ツアーはこれで無事終了。予定通り2時間半で帰ってきました。

100週年を迎え、すっかり寂れてしまっているぬかびら温泉郷

一番古い(つまり一番ボロい)こちらの温泉に入りました(日帰り入浴500円)。

混浴露天風呂とか書いてありますが、事実上の男湯ですねーはい。女性専用の露天風呂が別にあるしね。

 

 温泉でゆっくりしているうちにすっかり日が暮れ、私は街路灯の一つもない暗闇のトカチロードを、矢羽根*2を頼りにひたすら走って帯広へ帰りました。

 

今回のアーチ橋めぐりは、こんな感じで非常に充実したものになりました。

ただ、見逃した橋も多く、またタウシュベツ川橋梁の違う表情も見てみたいので、季節を変えて再訪したいと思っています。

 

ツアーだけで満足できない私のような人間ならレンタカーなどを使う必要がありますが、ツアーだけ参加するなら、バスをうまく使ったり、糠平温泉に宿泊するなどして公共交通機関のみでの訪問も可能なので、是非一度は行ってみてほしいです。士幌線は良いぞ。

*1:北海道では主に本州のことを内地と呼ぶ

*2:北海道ではよく見かける、積雪時に見えなくなる道路の外側線の場所を示す下向き矢印型の標識正式名称は「固定式視線誘導柱」らしい。